介護予防の体操教室を軸に理学療法士が描く、高齢者が活躍する社会【ひらつーコラボ】

北大阪商工会議所×ひらつー

地区内における商工業の総合的な改善発展を図り、社会一般の福祉の増進に資することを目的としている商工会議所と、枚方の地域情報を日々発信している枚方つーしんのコラボ企画!

北大阪商工会議所。

一度は聞いたことがある人が多いとは思いますが、「一体何をしているのか?」「どんな企業が参加しているのか?」といったことまで知っている人となると数はぐっと減るのではないでしょうか。

少しでも身近に感じていただけたらと、北大阪商工会議所に入会されている企業を月に1度のペースでご紹介していきます!

過去のコラボ記事一覧

川内 雅和氏

今回のNijiriguchiの主人公は、株式会社LICOS(リコス)代表取締役の川内 雅和氏(35)。

同社の設立は2019年。理学療法士である川内氏らが開発した「ロコフィット」と呼ばれる独自の体操プログラムによる介護予防事業を軸に、コンサルティング事業、空き家再生事業、高齢者の健康をテーマにした動画配信事業などを多角的に展開している。

2021年には、セルフで撮影が出来る気軽さが人気のセルフ写真館「Shamoe(シャモ)」もオープン。

実は、こうした事業の根底にあるのは、介護やリハビリ畑で培った専門知識を活かし、高齢者の社会参加を促したいという川内氏の思いなのだ。

そして、認知症の早期発見、空き家問題など、さまざまな社会課題の解決にも取り組む。“少しだけ優しい社会をつくろう”というビジョンを掲げるLICOSについて、話を聞いた。

理学療法士が監修した独自の体操
「ロコフィット」

川内氏が株式会社LICOSを設立するまでには、紆余曲折があったという。

社会人のスタートは、理学療法士として医療法人で勤務。2年ほど経った頃、知人から、デイサービスや通所リハビリテーションの新規事業の立ち上げを手伝って欲しいという誘いがあり、その責任者として事業の立ち上げに携わった。

その後、独立。一般社団法人を設立し、始めたのは、「買い物リハビリ事業」だった。
“目的のないリハビリは続かない”という考えから、買い物とリハビリをセットにした事業を立ち上げたのだが、軌道に乗せることができなかった。

その後、川内氏は、個人事業主として再スタートを切った。

医学的知見を有する理学療法士として監修した高齢者の介護予防のための独自の体操プログラムを開発。このプログラムは、高齢になっても“自分の足で歩き続ける”をテーマに、歩くための機能を維持・改善できる全く新しいもので、「ロコフィット」と名付けた。

ロコフィット

必要なものはノルディックポールと呼ばれるスティックと椅子のみ。

屋内外、いつでもどこでも誰でも気軽に取り組めるのが特徴で、歩くために必要な筋肉・持久力・柔軟性3つの要素の向上が期待できるのだという。

このロコフィットが、枚方市の介護分野の担当者の目に止まり、市の介護予防事業としての依頼が舞い込み、事業を黒字化することができた。

ロコフィットを立ち上げる際、川内氏から当商工会議所に拠点探しについて相談があった。

夜のみ使用していて、日中の活用方法に困っているスタジオがあったため、当所が提案し、拠点設置の支援をした経緯もある。

このほか、新規事業立ち上げの補助金の申請に関する支援も行った。

コロナを機に介護予防教室をオンラインに
動画事業も大反響

その後、ロコフィットの事業は順調に進んでいたが、2020年、コロナの波が押し寄せる。

これまでのように高齢者が集まる介護予防の体操教室を開くことができなくなった。しかし、川内氏は、いち早くZoom配信に切り替えた。

Zoomの初期設定を一人で行うのが難しい高齢者に対しては、自宅まで出向き、方法を丁寧に伝えたことで、思っていたよりもスムーズに移行できたという。

最近では、オンライン体操教室がすっかり定着。高齢者が近くの公民館に10人ほど集まり、自分達でパソコンを大きなモニターに接続して、配信される体操教室に参加しているそうだ。

対面でのロコフィットの様子

複数の場所に配信することで、同時に100名ほどが体操教室に参加できるようになった。

これを枚方市内全域でもっと増やしていけば、1人のインストラクターが同時に1000人規模の高齢者に介護予防の体操を教えることができる。

川内氏は、「オンライン教室の普及で費用対効果が非常に高くなり、より多くの高齢者に介護予防の体操を届けることが可能になった」と広がりを実感している。

さらに、コロナをきっかけに始めたYouTubeチャンネルが想像を超える反響を見せている。

「オンラインの体操教室のために撮影機材を揃えたし、枚方市だけではなくて全国に配信しようかと遊び半分で始めた」という『シニアの健康大学』というYouTubeチャンネルでは、夜間のトイレの悩み、腰痛など、高齢者に特化した健康情報を発信。

再生回数が100万回を超えているものもある。

始めてから半年ほどでチャンネル登録者が急増し、今では3万人を超える。その9割が65歳以上の高齢者だという。

「最初は手探りで始めたが、高齢者が求めるニーズとうまくハマった。今後もYouTubeを充実させていきたい」と語る。

空き家という社会課題の解決に、高齢者の力を

自治体と連携した介護予防の事業だけではなく、自分達だけでサービスを提供したいという思いから、川内氏は、次々と新たな事業を展開していく。
そして、全ての事業には、リハビリの発想があるのだ。

例えば、空き家再生事業。「リハビリをすることが目的でリハビリをしている高齢者が多いのが現状で、何のためにリハビリをしているのかという視点が欠けている」という川内氏の問題意識から生まれたのだそうだ。

全国的な課題となっている空き家問題の解決に、経験のある高齢者の力を借りようと考えた。こんな話がある。

川内氏のところに、ケアマネージャーから「担当している70代の男性が、自宅で引きこもりがちで、なんとかリハビリに通わせてあげたい」という相談が来た。その男性は、元大工だという。

川内氏は、デイサービスでのリハビリではなく、「大工」として空き家の改修の現場に働きに来てもらうのはどうかと提案。するとリハビリに興味がなさそうだったその男性が、現場ではイキイキと働き、足元が多少不安定な場所でもスイスイと歩き回れたそうだ。

さらに、現役の大工だった頃と比べて電動工具が重いと感じたそうで、筋肉を鍛えるリハビリを自ら始めたのだという。

何のためにリハビリをするのか、目的や目標を持つことの大事さを川内氏も痛感したエピソードだ。

川内氏は、「例えば70代だとまだまだ元気で動けるのに、目標ややりがいをなくしている方もいる。70代のうちにたくさん動くことで、80代、90代になっても元気でいられるので、介護予防にもつながるし、空き家の活用という社会課題の解決にも寄与できる。何か仕組み化できないかと考えている」と意気込む。

一方で、安全面のリスク管理をどうするか。そして、最低賃金の問題など、クリアすべき課題もあるという。

流行りのセルフ写真館にもリハビリの発想を

2021年に川内氏が始めたのは、セルフ写真館「shamoe(しゃも)」。
セルフ写真館は、文字通りカメラマンはおらず、自分でシャッターを切って写真を撮るスタイルで、韓国が発祥で人気を集めている。

2021年4月の立ち上げ時は、枚方市の伊加賀寿町にオープン、翌2022年に堤町にある鍵屋別館の5階に移転した。河川敷が見渡せ、5階のワンフロア全てがフォトスタジオ。若い人たちやファミリーを中心に、マタニティやペットとの写真撮影のニーズが多いという。

実は、ここでも、リハビリの発想がある。「自分の写真をかっこよく、綺麗に撮る」という簡単なゴールを設定してリハビリに励んでもらうのが狙いだ。

例えば、デイサービスでお年寄りに、「3ヶ月後に写真を撮るから、昔の服を着てみようか」と促すと、「あれ?昔と比べてお腹が出てる」などと気になるところが見えてくる。

「あと3ヶ月あるから、それまでにキレイに、かっこよくなろう!」という目標を立てて、ロコフィットで運動に励むようになる。具体的な目標があると頑張れるのはいくつになっても同じだという。

高齢者が活躍できる仕組みづくりを

10年以上高齢者のリハビリに関わってきた川内氏。
「ロコフィットをされている70歳くらいの方に『これからやりたいことはありますか?』と質問すると、だいたい答えが返ってこない。
人生まだまだ先は長いのに、数年後の目標とか日々の生きがいがない人も少なくない。みなさん元気なのに勿体ない。
だからこそ、高齢者の方の力を借りて、社会課題の解決に取り組みたい」そう語る川内氏はまっすぐ未来を見据えていた。

「例えば、社会福祉協議会には、高齢者から「畑や土地を寄付したい」という希望が寄せられるが、社会福祉協議会には寄付を受ける制度がないそうだ。そこに私たちが介入できないか。畑仕事をやりたい高齢者はたくさんいるので、土地を活用して高齢者が野菜などの農作物を作って売ったり、市内のレストランでその野菜を使ったり…何かできないかなと考えている」。

川内氏の考えの根底には、“高齢者がもっと活躍できる社会になってほしい” “生きがいをもってほしい”という想いがある。今後の展望を聞いた。

「体操のロコフィット、不動産事業、写真事業とさまざまな事業をやっていて、今はLICOSという1つの会社だが、それぞれの事業を分社化したい。
一人でやるには限界があるし、やりたいと思ってくれる人がいたらどんどん任せていきたい」。


川内氏のような考えを持つ社長が増えていくと、枚方中、いや日本中の高齢者が生き生きと暮らせるような世の中になるのではないだろうか。

株式会社LICOS(リコス)
〒573-0057
大阪府枚方市堤町10-24枚方宿鍵屋別館5階
TEL:072-808-8032
株式会社LICOS公式サイト

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