\北大阪商工会議所×ひらつー/
地区内における商工業の総合的な改善発展を図り、社会一般の福祉の増進に資することを目的としている商工会議所と、枚方の地域情報を日々発信している枚方つーしんのコラボ企画!
北大阪商工会議所。
一度は聞いたことがある人が多いとは思いますが、「一体何をしているのか?」「どんな企業が参加しているのか?」といったことまで知っている人となると数はぐっと減るのではないでしょうか。
少しでも身近に感じていただけたらと、北大阪商工会議所に入会されている企業を月に1度のペースでご紹介していきます!
今回のNijiriguchiの主人公は、枚方市のレーシングチーム「DELTA MOTOR SPORTS」を率いる田中延男氏だ。
チームは2017年に発足。車の販売・修理などのサービスを展開する「タナカオートサービス」が立ち上げた。
結成から今年(2023年)で7年目にも関わらず、“スーパー耐久”での3連覇など一躍日本のトップチームとなった。
快進撃の裏にあるのは“常識を超えた”田中氏の発想だ。勝利を生む思考はどのように生まれたのか。
その秘密に迫った。
勝つことが絶対条件
2017年、街の車屋だった田中氏がモータースポーツの世界で勝負をしようと決めたのは思いつきだったという。
「朝起きた時に妻と従業員に“レースをやる。シャンパンを獲る”と伝えた」。
しかし、頭に浮かんだのは費用の問題だった。
モータースポーツは参戦するだけでお金がかかる。さらに車やスタッフの費用を考慮すると思いつきだけで続けられるほど甘い世界ではない。
出るからには一つの覚悟を決めていた。
「いきなり勝ちに行くのが頭からあった。そうしないとスポンサーを取れない。
1、2年目が勝負になる。1年で何千万円も自腹を切りました。それが勝てば後で戻ってくる」。
田中氏は準備に2年間を費やした。
その間、スポンサーの人脈づくりに励み、またスタッフはメカニックの技術を習得するため別のチームで修業をした。そして2019年、満を持してレースに参戦する。
“スーパー耐久”3連覇
衝撃の快進撃
チームは衝撃のデビューを果たす。
初戦の鈴鹿サーキットで行われた「TOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Race」クラブマンシリーズで優勝。
さらにシリーズの年間ランキングでも総合2位に輝いた。
その後も勢いは止まらない。
2020年からは3年連続で「スーパー耐久ST-3クラス」のシリーズチャンピオンに。
2022年にはプロのトップドライバーも参戦する「TOYOTA GAZOO Racing86/BRZ Cup」プロフェッショナルシリーズで初代シリーズチャンピオンとなり、周囲も驚く快進撃を重ねている。
“出るからには勝つ”田中氏の宣言通りの結果となり、チームを見る周囲の目も変化した。
スポンサー企業も増え、資金面でもレースに継続参戦するための環境が整ってきたと語る。
「2022年で丸4年かな、大きいレース出だして。
この間のサッカーのワールドカップじゃないですけど世界が変わった。同じスポンサーさんでも5万円、10万円も上げてくれている。
スポンサーを100件まわっていたところが50件でいいという形になりつつある。
しかも電話で“デルタ”と言えば伝わるようになった」。
勝利の秘密は“常識を疑う思考”
なぜ勝つことができるのか。その秘密は田中氏のこれまでの歩みに隠されている。
実は田中氏は息子の良平氏がレーシングカートに参戦するなど、モータースポーツの世界に身を置いた経験を持っている。
しかし15年ほど前に離れて以来、街の車屋として仕事をし、休日には家族と遊びに行くなどレースとは無縁の生活を送ってきた。そして今回改めてレースの舞台に戻った。
久しぶりのサーキット。そこで感じたのは、以前と何も変わっていない業界の常識だったという。
「やっていることが一緒なんですよね、昔と変わらないんですよ。他を見てないからですよね。
箱の中で同じ人間がぐるぐる回っている以上は新しいことはできないです。新しい知恵もないし。
僕は車屋やったりとかスキーに妻と行ったりとかレースとは関わりがないことをやってきた」。
田中氏が言う新たな知恵。それは例えばレースでの作戦に表れている。
チームの主戦場の一つである“スーパー耐久”。
“耐久”の名の通り500キロや1000キロもの長い距離を複数のドライバーが交代しながら走る過酷なレースだ。
その勝敗を分ける要素の一つがドライバー交代のタイミングだ。
田中氏はこのタイミングについて業界の常識にはない発想を語った。
「みんな耐久レースは1時間15分走ってドライバー交代。また1時間15分でドライバー交代。このルーティンを大体決めているんですよね。
これは間違ってないけれど、30分でドライバー交代したらあかんの?5分で代えたらあかんの?という話。
ダメじゃないけどみんなそれをしない。する勇気がない。過去にそのやり方で勝ったからと言って脱皮できてない。
僕は1回経験をゼロにしてしまっているからできる。えっそんなやり方あるの?という新しいやり方、発想になる」。
ゲームのチャンピオンをドライバーに
さらにドライバー選びにも田中氏の常識を超える発想が表れている。
チームのエースドライバーの冨林勇佑氏。
冨林氏はeスポーツ、つまりゲームの世界でレースを行っていたという異色の経歴を持つ。
2016年にeスポーツのレース「グランツーリスモ」で世界チャンピオンとなった冨林氏。
ゲームだけでは飽き足らず、実際のレースにも興味が湧き、田中氏の元にオーディションに訪れた。
一般的にはドライバーになるためには幼少期から現実のレースで経験を積み上げることが必要だ。
ゲームと現実は違う。そう考える人も少なくない状況だった。
しかし田中氏はオーディションを実施。
コースを3周走った冨林氏を見て、車をコントロールする技術の高さに素質を感じた。そしてドライバーとして抜擢することを決断した。
「今でもeスポーツはおもちゃって言われている。やっぱりゲームはおもちゃでしょう。
そのドライバーを育てていくっていうのは、みんなと違う路線をとったということ」。
一方の冨林氏は、eスポーツから現実のレースへの参戦についてこう語っている。
「今どきのゲームは本当によく出来ているので、リアルでも違和感はあまりなかった。
もちろん、多少ゲームと実車とで違いはあるが、基本的なものは同じなので、細かい部分の擦り合わせさえ出来れば問題なく乗れる」。
田中氏は多額の参戦費用がかかるモータースポーツにおいて、eスポーツからの参入を増やしていくことが裾野を広げることに繋がると考えている。
「カートで小さいときからやらないと上にいけないっていう考えはもう古い。
そこに行くまでにお金をいくら使っているかと言えば1億円くらいの大金が必要となる。親が金持ちだったらいいんですけど。
eスポーツならお金が無い人でもできる。eスポーツをもっと日本国内で有名にしたい」。
モータースポーツに新たな風を
田中氏は業界全体を考えた新たな取り組みも始めている。
まずはエースドライバーの冨林氏との代理人契約だ。
チームやスポンサーとの契約、レース外での様々な活動を田中氏が代理人として行うことで冨林氏はレースだけに集中できるようになる。
世界のスポーツ界では常識のスタイルをモータースポーツにも取り入れたいと考えている。
「選手はお金の交渉をするのが仕事じゃない。野球でもテニスでも。
選手はそこでパフォーマンスをするのが仕事。だから一流になれるんですよ」。
また、年ごとの契約に左右されるドライバーの不安定な環境にも一石を投じたいと考えている。
そこで始めたのがドライバーを多数抱え、足りないチームに派遣する取り組みだ。
「1年乗って、はいさよならでしょう。それが今のやり方なんですよね。
最低15人から20人ドライバーを抱えてレースでドライバーが足りないときにレンタルをする。プロダクションのように。
ドライバーには1000万、2000万円の給料は渡せませんけど、普通のサラリーマンぐらいは渡したい」
地域密着のチームでさらなる飛躍を
田中氏に今後やりたいことを尋ねると「地域への思い」を語った。
DELTA MOTOR SPORTSは最近、当商工会議所に入会。
当所を通じ地元の企業との関係を強めていきたいと考えている。
また、地域で安全運転講習も行っていきたいという。
車が店舗に突っ込むなどの交通事故を一つでも減らしたいという思いからだ。
「駐車時にコンビニに突っ込んでしまう事故があるが、あれには理由がある。
実際に出ているスピードと感覚にズレが生じている。これを防ぐには、一旦停止してバックで駐車するのが良い」。
田中氏が見据えるのはチームの未来、そして地域の未来だ。
インタビューの最後に力強く言った。
「やっとこれで並みのレーシングチームになれたと思っている。
周りにも認知された。やっとスタートラインに立つことができた。ここからだ。」
DELTA MOTOR SPORTS (デルタモータースポーツ)
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