やってきました2016年
みなさんはどのように迎えられましたか?
今年も、枚方に隠れたいろんな知らないことをお伝えできればいいな
…そして、それをちゃんと仕事に生かしていかねば、と感じる年始でございます
本年も、どうぞよろしくお願いします
そんなほんちゃん@ひらつーがお送りするシリーズ企画。
「津田サイエンスヒルズ見せて!」
(シリーズ概要はこの記事をチェック!)
(過去の「津田サイエンスヒルズ見せて!」シリーズはこちらから)
20を超える企業・施設が集う場所、「津田サイエンスヒルズ」。
そこには果たしてどんな技術やお仕事があるのか…?
第9回目は…おや?
高貴なおひげを貯える、この顔に見覚えある方もいるのでは?
昔から変わらないこの顔の会社といえば…こちら!
「森下仁丹株式会社」さーん!!
サイエンスヒルズ内での場所は、この辺りになります。
一番奥のあたり、山の上の方にあります。
「シームレスカプセルが創る新しい未来」
と書いてあります。
カプセルは仁丹だし何となく想像つくけど、シームレスって何?
今回も、いろいろ知らないことが聞けそうな気がします。
では、いってきますぞー! !
1:「森下仁丹」って、どんな会社?
2:伝家の宝刀“シームレスカプセル”って?
3:異分野を狙え!使い方は無限大 〜まとめ〜
今回は、カプセル開発部の釜口さん(写真奥)に詳しくお話を伺いました。
経営企画部の本山さん(写真手前)にも同席いただきました。
ほんだ
森下仁丹さんの工場が津田にできたときは、「わ!知ってる会社の工場が来た!」とビックリしたのを覚えています。ここではどんなことを行っているのですか?
(窓から漏れる光があたってますね)
釜口さん
ここは「大阪テクノセンター」といって、主に研究開発部門が入っています。このセンター以外には、大阪市内に本社と、滋賀にカプセルを専門に作っている製造工場があります。
ほんだ
釜口さん
いや、仁丹の製造や梱包は、ここ枚方で行っているんです。
(’13年が120周年だったということで、こんなポスターも)
ほんだ
え!仁丹は枚方で作られていたんですか!(驚)……そういわれれば、ほんのり生薬の香りがするような。
釜口さん
テクノセンターの2階が製造拠点になってまして。他にも主力商品の一つであるビフィーナなどのサプリメントを包装・梱包したりもしてます。
ほんだ
へぇー!
釜口さん
商品の研究開発は、すべてここテクノセンターに集約されています。ヘルスケア商品やその他にも“シームレスカプセル”を使う製品はたくさんあるので、滋賀にカプセルの製造を専門にした工場を持っています。あと、通販部門と営業などが本社にございます。
ほんだ
でましたね、“シームレスカプセル”。それって、どんなカプセルなんでしょう?
(動画を見せていただきました)
釜口さん
「カプセル」と聞くと、どんなものを想像されます?
ほんだ
薬屋で売っている、風邪薬のようなものですかね?長細くって飲んだら胃の中で溶けます、みたいな。
釜口さん
ここで研究開発している“シームレスカプセル”は、見た目がちょっと違うんですよ、ほら。
(カラフルなカプセルたち)
ほんだ
おぉ、まん丸ですね。カラフルなイクラみたいな。
釜口さん
これは、液体を包んだ仁丹を作りたい、という発想で生まれたものでして。
ほんだ
というと?
釜口さん
仁丹って生薬の粉末を固めて丸くしたものですよね。その液体バージョンとして、薄い皮膜が口の中でさっと溶けて、中に入った生薬の液体がぱっと広がるのが理想ではないかということで夢を追いかけて開発したものなんです。
(説明に熱が入ります)
ほんだ
なるほどー、しかしこのまん丸な形、どうやって作るんですか?
釜口さん
水滴って、落ちている間はどんな形だと思います?
ほんだ
(もやもやしずくの形を想像していたら…)
(どうやらほんだが想像していたものを見透かされたようです)
釜口さん
水って表面張力が働くので、できるだけ丸くなろうとします。油の中に水滴を落とすと丸くなるでしょ。
ほんだ
そういえば、そんなおもちゃもありますよね。液体版砂時計みたいな。
釜口さん
その原理を利用して、きれいな丸い形をした継ぎ目のないカプセルを作っています。
(出来立てのカプセルたち)
なるほど、継ぎ目(シーム:seam)がないから“シームレス”なんですね(急いで英語を調べました)。
釜口さん
いろいろできますよ。色も表面の膜に色素をつければいいですし、その材質を変えることで硬さも変えることができます。今は、2層だけでなく3層、4層と多層構造のカプセルの製造も可能になっています。
(多層カプセル。中に緑のカプセルが入ってますね)
ほんだ
多層にするといいことがあるんですか?
釜口さん
親油性(油と仲良し)の液体や親水性(水と仲良し)の液体といった、違う性質を持つ成分を1つのカプセルにすることもできれば、その層をコントロールすることで、狙った時間で溶けるようにすることもできます。
ほんだ
胃で溶けずに腸で溶けます、みたいなことも可能ということですね。これって、独自の技術なんですか?
釜口さん
一番最初に開発した2層カプセルの特許は期限が切れているのですが、3層・4層の特許は森下仁丹が持っています。
(出来立てのカプセルは本当にイクラみたい)
ほんだ
へーー!すごい!きっと難しい技術なんでしょうねぇ。
釜口さん
「滴が落ちる」という自然現象を用いているため、いかに出来上がりがばらつかないようコントロールできるかは、とても重要になります。口に入れるものをつくるところからスタートしましたから、膜の厚みや均質性、弾力などにはとても制限がありますよね。
(つぶつぶを見ながら説明していただきます)
ほんだ
確かに!それに加えて、正確さも大事になりますよね。
釜口さん
そうですね。使用する液の特性や滴を落とす早さ、それに液を出すノズルの形状なども大きく関係してきます。一つ一つを細かく調整して作っていくんですよ。ちなみにノズル部分の構造設計も全てここで行っています。
ほんだ
本当に機械をつくるところから、カプセルづくりのノウハウを持っているんですね。
釜口さん
他にもカプセルを作る会社はありますが、粉末のモノや錠剤などいろいろ作られています。ここはシームレスカプセルだけ。この事業の生産数で言えば国内で一番多いですよ。
釜口さん
それが、このカプセルはもっといろいろ使えるんじゃないかということで、工業用にも用途が広がってきているところなんです。
ほんだ
そうなんですか!?でも、なかなかそれ以外の使い方ってイメージできないのですが…。
釜口さん
例えば、カプセルの中にビフィズス菌を入れられるということは、カプセル内の環境を安定にすれば中で細胞を生きたまま入れることもできるはず。
ほんだ
細胞ですか?
釜口さん
そうすれば、人工種子も作れるはずということで、特許を取得しています。自然の種子だと強いものや弱いものが混在してますが、高付加価値のある植物で一定の優秀なクローンを種子化することができれば、そこから採れる作物も安定するだろうと。
ほんだ
えー、すごい!
釜口さん
さらには、こんなのもあります。
(白がビフォー、黒がアフター)
ほんだ
これは…?
釜口さん
ある特定の金属を体に取り込む性質のある微生物をカプセル内に入れて、水質浄化に使用した例です。微生物は膜の外にでられませんが、水に溶けた金属の成分は膜の内側にしみ込んでこれます。どんどんカプセルの中にしみ込む金属を、微生物がキャッチしてくれるんです。
ほんだ
これはすごいですね!単独で開発したのですか?
本山さん
これは大阪府立大との共同開発です。大学でレアメタルの回収技術について基礎研究をすすめる際に、微生物を回収するのが大変だからどうにかしたい、と希望があったようです。そことうまくマッチングできるだろうとお声がけさせてもらって、共同研究になりました。
(説明にさらに熱がはいります)
ほんだ
おぉ、こちらから声をかけたんですね!確かに微生物が金属を回収してくれても、その微生物を回収するのは難しいですもんね。それをカプセルにしてしまえば、ザルなんかでさっとすくえるし、楽!
釜口さん
レアメタルって貴重な資源ですよね。リサイクルするのに従来の方法だと薬品や電力など環境への影響が大きかったんです。ところが、この方法だと一切環境負荷をかけずに安全にできる。ということで、研究を進めています。
ほんだ
こちらの強みが異分野で生きてくるとは…他にも事例はあったりします?
(じっと眺める)
釜口さん
そうですね、シロアリ駆除の研究もしてます。
ほんだ
シロアリですか、また全然違う分野からきましたね!(驚)
釜口さん
シロアリって巣の中に卵を持ち帰る習性があって。その習性を使って巣の中に入り込む菌類についての研究が京都大学でされていたんです。じゃあ、この習性をつかって何かできないか、と探されていたところに「粒の大きさも中身もコントロールできますよ」ということで、カプセル内に殺虫剤を閉じ込めて駆除できないか、という研究をスタートさせたんです。
ほんだ
すごい…!壮絶なだまし討ちですね。これは実用化までどのくらいなんですか?
釜口さん
今は実証実験の段階です。農林水産省などから補助金をいただいて、産学官連携の共同研究として成果をだしています。今までの駆除方法だと薬剤の量がどうしても多くなってしまうので、人間にとってもよくない。それを効率よく安全にできるということで、注目されています。
(こちらシロアリの偽卵カプセル。小さい。)
ほんだ
大学とのつながりって多いんですか?
釜口さん
将来はまだまだいろんな分野にリサーチをかけていかないと、と思っています。今、大学などの研究機関に向けて積極的に「森下仁丹のカプセルはどうですか?」と発信できる仕組みを作りつつあります。これは広がればと思っています。
本山さん
お客さまや大学の先生などからカプセルにしたい素材を相談されて、初めて気づきを得て進むということも多いです。その度に新しい発見ばかりですね。
ほんだ
今後の展開も面白そうですね!
(笑顔がこぼれます)
釜口さん
医薬については、想像通りの活用方法があります。医薬品としては「狙った通りに溶かす」ことができることから今、経口ワクチン(飲むワクチン)としての活用を狙っています。さらに、工業用には「素材」としてきっと考えつかないような応用方法があるはずなんです。
ほんだ
確かに、硬さや透明度や材質などを変えられるということは、触媒にしたり蓄熱させたり、まだまだ新素材としての可能性があちこちに隠されていそうですね。
釜口さん
今までの知見に加えていろいろなアイデアや手法を足す、この流れは当初そこまで考えていませんでした。技術を外部に出すことで、新しいアイデアをいただいて新しい基礎開発が始まる。その繰り返しですね。
ほんだ
見た目はコロコロとかわいらしいカプセルには、とんでもない可能性が隠れていたなんて。枚方から次はどんな研究が飛び出すのか、楽しみです。今日はお忙しい中、いろいろとお話をお聞かせいただきありがとうございました!!
(伝統の仁丹ロゴと一緒に記念撮影)
マークと名前には見覚えのある森下仁丹さん。仁丹ってちょっと古い…という頭の中の勝手な企業イメージは、一瞬で消え去っていきました。歴史の長い会社ですが、社会のためになる新しいものづくりに向けた情熱はますます燃えているようです。
特に、大学などの研究機関には「技術としてはすごいけど、社会実装するにはハードルが…」「おもしろいけど、何の役に立つのか…」というものも多いはず。 このまん丸カプセルには、そんな問題を解決する秘密も詰まっているような気がします。次の“異分野コラボ”が楽しみです!
《おまけ》
どうしてもやってみたかった、仁丹ロゴとのコラボ。
おさや@ひらつーが気づいてくれるまで、数分このままジッと待っていたのは秘密です。
◆関連リンク
・津田サイエンスヒルズ
・森下仁丹 株式会社