ひらかたメモリーズ file.014 [2006年11月@南中振]

枚方の人々の思い出を元にした、ほぼノンフィクションの読み切りエピソード集「ひらかたメモリーズ」、第14回をお届けします。


ひらかたメモリーズ file.014
2006年11月@南中振 午後9時

紺色のママチャリの荷台に彼女がまたがり、その重みを背面いっぱいで感じてから僕はゆっくりとペダルを踏みこむ。

香里園駅に停めてある自転車に二人乗りをして彼女を家まで送り届けるのが、いつの間にか僕たちのデートコースになっていた。

西口から飲食店などが並ぶ繁華街を抜け、北へ向かいながらできるだけゆっくりとペダルをこぐ。

「住宅街のイルミネーションを見よう」

そう昨年の冬に言い出したのは彼女だった。

香里園駅から彼女の家と僕の家は全くの逆方向だった。彼女は直接「もう少し一緒にいたい」と言うのではなく、イルミネーションを見るという理由をつけたんだと僕は解釈した。

そんなところがとても可愛らしかった。

二人乗りが見つからないように、できるだけ細い道を選んで南中振の住宅街を目指して進む。

「その角を右」
「その先を左ですぐに右」

夜の路地で的確な指示を出すのは地元である彼女の役目だ。

しばらくして目的の住宅街にたどりつくと、色とりどりの自宅イルミネーションが僕たちを迎えてくれた。

サンタがベランダを登っているもの、壁にかかったツリー型のライト、庭先には光り輝くトナカイ…

「すごいなぁ」「…キレイ」

言葉少なに僕たちはつぶやく。

イルミネーションは去年と比べて大きな変化はなかったけれど、高校生の僕たちにとってはお金を使わずに楽しめる立派なエンターテインメントだった。

去年と変わったのは1年が経ち、来年の春には別々の道へ進学することだった。

彼女は夢を追いかけるために遠方の大学へ進学することを固めつつあった。僕は実家から通える大学を進学先として選んだ。

ただなんとなく、今では僕の傲慢さだったとわかるけれど、彼女は僕との距離を考えて近くの大学を選ぶんじゃないかと思っていた。だから遠方への進学を聞いた時は心底驚いた。

「そうなんや…」

その話を聞いた時の僕のリアクションは内心とは裏腹な、無関心と取られてもしかたのないものだった。

彼女の夢は応援したかったけれど、一緒にいたいと思う気持ちも強かった。でも本心を伝えるのを恥ずかしがってそのことはちゃんと伝えられなかった。

デートは中振の交差点を渡ると終わりをつげる。

住宅街から国道を越えた所にある枚方ゴルフセンターが見えてくると、そろそろか…と寂しい気持ちになった。

中振の交差点の信号待ちは長い。

もうこうしてイルミネーションを見るのは今年で終わりなんだろうな…

そんなふとよぎる感情に飲み込まれないように、僕は彼女へのクリスマスプレゼントのことを考えるようにした。

考えないように、時間が流れることに気づかないふりを続け、2006年の冬は過ぎていった。

その冬を最後に、自転車で二人乗りをすることもなくなった。二人乗りの荷台の重さの感覚は、きっとまだあの冬のままだ。

(おわり) 


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