くらわんか花火、今年は9月15日。開催に立ちはだかる壁とは!?

水都くらわんか花火大会HPより

秋の気配も少しずつ感じ始める9月。
しかし、枚方の夏はまだ終わらない。
あの花火が打ち上がるまでは。

2024年9月15日(日)、淀川河川公園で開催される「第3回水都くらわんか花火大会」。
観客動員数は、約25万人。
打ち上げられる花火の数は、5,087発。
枚方・高槻・交野市で前の年に生まれた子どもの数、5,087人と同じ数だ。
次々と上がる花火一つ一つが、この地域で新たに生まれた子どもたちへのメッセージにも思える。

井關拓史さん

主催しているのは、一般社団法人水都くらわんか花火大会 代表理事の井關拓史さん(38)。


花火大会がある街は活性化し、地元への愛着が深まり、それが次の世代へと受け継がれていく。
そんなことを思い描いている。
目指すのは、「100年続く花火大会」だ。

実は、約20年前まで毎年開かれていた枚方の花火大会を復活させようと、10年間奮闘してきたストーリーがある。

今回ひらつーでは、花火大会を目前にした井關さんにインタビュー。
この10年間の奮闘や花火大会にかける思いについて伺った。

今年は有料観覧席のトイレを5倍に!

――今年で3回目になりますが、今年は5,087発なんですね


「打ち上げる花火の数は、前の年に生まれた子どもの数にしていますが、今年は、会場となる枚方、高槻に加えて、お隣の交野市も加えて、5,087発になります。
交野からもたくさん観に来てくれていると思いますので、より多くの子どもたちに届けたいなと思っています」

――なぜ生まれた子どもの数に?


「花火の歴史をみてみると、もともとは、亡くなられた方の慰霊のために始まっているんです。
そういう意味では新しく生まれてきた子どもたちの数だけ花火を上げるっていうのはリンクしているかなと。
0歳、1歳のお子さんを抱いて花火を見に来てくださるお父さん、お母さんは、『この子がこの一発になってるよ』って実感しながら見てくださっているので、嬉しいですね」

「第2回水都くらわんか花火大会」の花火のようす【枚方フォト】より

おそらく、日本一病院の近くで行われる花火大会でもあります。
近くの関西医大附属病院には、重い病気の方もたくさん入院されている。
音の問題とか色々あると思うんですけど、病院からは「ぜひやって欲しい」と言っていただいていて。
長期間入院されている患者さんが、病院から花火が見られるということで非常に楽しみにしてもらっていて、「頑張ってください」とメッセージをいただくこともあります。
日本一病院が近い花火大会だからこそ、やる意味があるものにもなっているのかなと思っています。

――他に去年と違うところはありますか?


「変更点としては、去年、トイレが混雑したという反省があったので、今年は、有料エリアの仮設トイレを5倍に増やしました。
飲食店の数も増やして、足元の草も短く刈り揃えているので、より快適に過ごせると思います。
有料エリアへの入場は専用ルートを確保しているので、駅に近くて動線もスムーズ。
事前の場所取り不要で、花火を一番近い距離でゆっくりと観覧できるので、お子さま連れの方、お年寄りの方などは、特にオススメです」

テーブル席
シート席
椅子席
※こちらは昨年度の「ペア席」の写真です。実際は席の間隔がなく隣り合わせの連結席になります。

淀川の河川敷に設置される有料観覧席は、枚方会場、高槻会場合わせて2万席。
定員6名のテーブル席、シート席と、1名のイス席があり、価格は、5,000円〜45,000円。
今年から、イープラスでの申し込みとなり、利便性を高めた。
前日の9月14日(土)18時まで購入可能。

花火大会なんてできない

全国的にみるとコロナ禍が明け、花火大会が再開されたところもある一方で、資金難で中止を余儀なくされている花火大会も少なくない。
そんな逆境とも言える時代の中、井關さんは、10年前からこの花火大会を開催するために奮闘し続けてきた。
かつて枚方で行われていた花火大会を復活させるために、たった一人で行動を始めた。

――そもそも、なぜ花火大会を復活させようと思ったんですか?


「僕は、和歌山市出身で、大学に進学した2004年から枚方に住んでいます。
その前の年にかつての花火大会が中止されたので、僕自身は見たことがない。

大学を卒業して、24歳の頃に、バーを開業したんですけど、いろんなお客さんから花火大会の思い出話を聞いたんです。
そして、「もう一度花火大会やりたいよね」と口を揃えて言っていた。
それなら僕が復活させようと行動を始めたのが2014年です。
昔の花火大会に携わっていた人に話を聞きに行くところから始めました」

――周囲の反応はどうでした?


「最初、誰に相談しても『金もかかるし、警備とか、許可の問題もあるから、大変とかじゃなくて、できへんで』としか言われませんでした。
僕は、『できないと言っている人たちって花火大会をゼロから作ったことないのに、できないって、なんでわかるねん。できないかどうかは、やってみてから僕が決める』と思ってました」

――実際、大変だった?


「むちゃくちゃ苦労しました。
僕は、バーテンダーなので、河川敷の借り方も花火のあげ方も何もわからない。
『花火を上げたいんです』と警察に相談すると断られ、消防でも断られ、河川事務所に行っても断られて。
僕が20代半ばの若造だったこともあったのか、門前払いでしたね・・・。
周りの仲間に、実行委員会一緒にやろうやって声をかけても、みんな『仕事が忙しいねん』とか『結婚したばかりやから余裕ないわ』とかいろんな理由で断られた。
『あれ?みんな復活させたいと言ってたんちゃうの?』ってなりました。
だから最初は、5人ぐらいで準備を進めました」

――どうやって実行に移したんですか?


「当時、僕の頭の中では実施規模や、プロモーションのかけ方、内容を工夫することで、資金を抑えて、安全面の担保もできるんじゃないかなと考えていました。
1回目は小規模でスモールスタートさせて、見に来てくれる方を少しずつ増やし、行政との信頼関係も作って、5年から7年くらいかけて花火大会を復活させようとイメージしました。
2015年、淀川河川公園で、手持ち花火の同時点火人数のギネス記録に挑戦するイベントを開いて、1000人ほどが来てくれた。
ギネスは達成しなかったんですけど、みな帰りだした時に、『ちょっと待ってください!今からここで13年ぶりに花火が上がります』って言って、75発あげたんです。
その瞬間に、『うわーーっ!』ていろんなところから歓声の声が上がった。
この歓声を聞いた時に、『やっぱりみんな花火を待っていたんだな』と思いました。
次の年は、250発上げて、4000人ぐらいの方が来てくれた。

最初の5年間ぐらいは、飲食店や縁日、音楽ステージをやるイベントを開催して、事前告知をせずシークレットで最後に花火をあげた。
500発になり、1000発になり、1200発になって、2019年には来場者が5万人を超えた。
みんな最後に花火が上がるってわかって来てくれるようになったんです」

※2019年 前身のライトアップフェスティバルとして打ち上げた花火。水都くらわんか花火大会HPより

コロナ禍はむしろチャンス

順調に花火大会への道筋が見えてきたが、2020年からコロナ禍となる。
井關さんは、むしろこれをチャンスと捉えた。

――コロナの時は先が見えなかったんじゃないですか?


「それまで、イベントの準備期間に8ヶ月ほどかけていたけど、『花火大会』として交通規制をかけて開催するには、8ヶ月では間に合わない。
2020年、2021年とコロナで中止判断をした時に、逆にこれから1年先、2年先に向けて準備できるチャンスだと思ったんです。
ようやく枚方市も『協力します』と言ってくれた。運営費には市の税金を入れずに、市には許認可や、万が一事故があった時の対応などで協力いただけるようになった」

――周囲の協力を得るのは大変そうですね


「最初、2014年に動き始めた時は、『井關拓史って誰なん?』て感じやったと思います。聞いた話では、『花火あげるあげる詐欺で、お金集めてる奴がいるぞ』って警察が捜査始めたとか。
毎年イベントを重ねるごとに、警察や消防、市、河川事務所などの方とやりとりする中で、僕のことを知っていただけて信頼関係が生まれた。

地域住民の方にとっては、やっぱり気になるのは、“ゴミ”です。
僕らは『花火大会が終わったら夜通しゴミ拾いします』と言って、有言実行した。花火大会をやる前よりも、やった翌日の方が綺麗な街になった。
それならやった方がいいと感じてもらえたんじゃないかな」

ノウハウ、マンパワーは揃った。問題は・・

コロナ禍がようやく終わり、2022年に「第1回 水都くらわんか花火大会」を開催。
枚方と高槻の2会場で交通規制を伴う花火大会として、4,995発の花火を打ち上げ、約25万人が来場した。

第1回 水都くらわんか花火大会」の花火のようすより

――長年準備してきた花火大会、やってみてどうでした?

水都くらわんか花火大会HPより


「正直言うと、1回目は、人の動線とか、何もかもがボロボロでした。
他の大規模な花火大会って、1ヶ月ぐらい前から設営準備してるんですけど、僕たちはテントをたてるところから基本全て自前で、前日設営、当日に全バラシなので、暑いしもう死ぬんじゃないかっていうぐらいの過酷さで。
その反省を踏まえて2年目、人の動線とか設備の準備期間とか、もろもろ変更をかけて、ある程度形になった。
25万人もの方に見ていただく花火大会を運営するためのノウハウはついてきたので、今年は、運営面での課題はほとんどクリアするんじゃないかなと思っています」

――3年目でかなり整ってきたんですね?


「花火大会をする上で必要なのが、『お金』『マンパワー』『許認可』なんですね。
許認可に関しては、さっき言ったように警察、消防、行政との信頼関係ができてきて、かなりスムーズになってきた。
マンパワーに関しても、実行委員会のメンバーが、最初5人ぐらいだったのが、今90人近くいます。自営業の方だけでなく、サラリーマン、学生さんとか、みんな手を挙げて実行委員会に入ってきてくれるんです。
当日の誘導や警備、救護の看護師さんなどのボランティアは、1年目は、100人ぐらいからスタートしたんですけど、今800人ぐらい集まってくれている。だから、マンパワーも足りています。
問題は、お金ですね…」

――どこも資金難と聞きますよね。そもそも、花火大会の運営費ってどうなっているんですか?


「花火大会の運営予算は、企業からの協賛、有料観覧席の販売、出店料から成り立っています。
花火大会って、予算ありきで動けない面があって。例えば予算5000万円だからこの中でやりましょうというのがしにくい分野なのかなと。
1回目の2022年、予算約5000万円で組んで、結局6000万円くらいかかった。1000万円の赤字です。というのも、予算を決めた後に、自治会から連絡が来て、ここに人がたまるから警備員つけてほしいとか、いろいろ要望が来て、安全を第一にしないと二回目続かないなと思ったので、それにできる限り対応したら警備費用が上がっていったんです。
そして2年目の2023年は、1億500万円ほどかかり、500万円の赤字」

「第2回水都くらわんか花火大会」の花火のようす【枚方フォト】より

――今年の状況はどうですか?


「今年は1億6000万円の予算見込みで動いています。地元企業を中心に協賛してくださった会社が、300社くらいあってありがたいです。有料観覧席は、6割くらい購入していただいています(取材時)。
予算の多くを占めるのが警備費、設備費ですね。
警備費は、年々上がっていたので、別の会社にして1,000万円くらいコストダウンできたんです。
警備員の人数を減らすことなく、シンプルに一人単価を下げてもらった。
設備や花火を運んだりする物流コストは上がっています。
すでにこの2年間で1500万円の赤字で、基本的に僕個人で負っていますので、今年も赤字だったら、今年で辞めるのか、続けるのかっていうジャッジをしないといけないなと。
気持ち的には、僕は来年もやる気満々ではいるんですけど、お金が足りなければ続かないんじゃないかな、という問題はやっぱり抱えています…。
僕は花火大会が終わった後に、その借金の返済をしていく人生が始まるんじゃないかな、みたいなことも考えています。それはそれで面白い人生かなとは思ってるんですけど…」

この井關さんの言葉を聞いて、はっとした。
みな、花火大会が復活したから、これからもずっと続くものだと勝手に思っているのではないかと・・。

そこまでの覚悟で井關さんが花火大会にかける原動力とは何なのか。
そこには、思春期の頃から抱えていた壮絶な過去があった。

(後編に続く)

■関連リンク

written by Dragonfly(ドラゴンフライ) 谷井亜紀

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